This Category : 12月 ターコイズ・タンザナイト・ラピスラズリ
2009.12.22 *Tue
●○ 涙のあとには 2 ○●
・こちらの作品は、12月の誕生石の持つ力をモチーフに書いた【涙のあとには 1 】の続きのお話しです。
・最初からお読みになられる方はこちらからどうぞ
→ 【涙のあとには 1】
12月の誕生石…ターコイズ
・石の持つ力…「邪悪なもの、危険から身を守る」
・登場人物…風早・爽子(あやね・千鶴・その他…)
・時系列…想いが届いてからの冬
+ 涙のあとには
******************************
昼休み終了間際に“仕事”に出かけていった爽子が戻らない。まじめなあの子が…誰もがそう、首をかしげていた。
「やのちん、爽子、どーしたんだろうね?」
「引っかかるわね…あの子がサボリなんて…このヘタレ王子と神業すれ違いをした時以来」
「ヘタレっていうなよな、矢野!!」
(でも、確かに黒沼がサボるわけない…)
どこかで、具合でも悪くして倒れてるかも??
「おーい。欠席は黒沼だけかー」
「あっ、俺、ちょっと見てくる!」
俺は勢いよく自分の席から立ち上がって、逸る心を抑えて言う。風早の過保護、出たー!とか、皆勝手なこと言って盛り上がってるけど、そんなのお構いなしだ。それどころじゃない!黒沼が居ないんだぞ!…それに、すでに俺と黒沼のことを認めてくれているクラスのみんなの野次は、どこか暖かいものだった。
「風早、頼むよ」
「資料室に、宿題のノートを置きにいったのよ」
「サンキュ!」
資料室か…。あっちの棟、さみーんだよな。大丈夫かな、黒沼…俺はそんなことを考えながら、教室を飛び出そうとする。するとピンの声がそれを押しとどめた。
「おい、コラ!風早、お前俺の授業サボってストロベリータイムか!!」
「ちっ、ちげーだろ!黒沼サボったりしないの、ピンも良く知ってるだろ!」
「…よーし、ならば10分以内に嫁を探し出して来い!さもなければ授業中静まり返ったこの校内にお前の公開告白を再々現ドラマとして特別放送してやろう!」
「…っ、つーかそんなことしていいわけねーだろ!俺、もう行くかんなっ!!」
パシーン!と扉を閉めて、教室の外に出た。
(ピンのやつ…好き勝手言いやがって)
いや、今はそれより黒沼だ。
どこにいったんだろう…??
(とりあえず、資料室、か)
騒がしい教室とは相反する世界。
シンと静まり返って、教室よりも幾分冷たい空気が身を包む。聞こえるのは、教室の中からの教師の声と、チョークの音だけだった。
---
「わ…わたしは…」
睨みつけられている爽子は、それでも臆することなく言葉を選んで慎重に口を開いた。慎重に選んだつもりだったが、結局はストレートな地雷となって女生徒たちに放たれた。
「私は、風早くんと、お付き合い…し、してますっ」
いいお付き合いを!とこぶしを作って力説する爽子に、女生徒たちの顔色が変わる。
「なっ…よく、そんなことがいえんね!なんであんたみたいなのが!」
「そ…それは、私が聞きたいので!」
うまくその場をやり過ごすことなど毛頭考え付かない爽子は、いつもと同じように素直な気持ちを話しているだけだった。しかしそれは、女生徒たちの神経を逆なでするには十分な代物だった。
「はぁっ?なんでお前が、風早と付き合えるんだよっ」
「不釣合いなの、わかんねーの?」
「つーか、別れろよ!」
ヒートアップした女生徒たちは次から次へと爽子に暴言を浴びせる。言葉は刃となって爽子に襲いかかるが、爽子がそれでひるむことはない。変わらずにまっすぐ見てくる爽子に苛立ちを隠そうともしない女生徒たちの一人が、爽子の髪をつかんで引っ張った。
「つ…っっ」
さすがに痛みを堪えることもなく爽子が声を漏らすと、更に畳み掛けるようにわめき散らした。
「風早に色目使ったんじゃないの?!」
「迷惑だよ、風早も!」
「別れたほうがお互いのためだろ!」
髪を引っ張られたまま詰め寄られるが、それでも爽子は動じなかった。
「か…風早くんは、迷惑だなんて…私だって、色目を使うなんて、そんなことしてないよ!」
---
資料室に上がる階段のうえから、なにやら騒がしく声が聞こえる。
(いた!)
「くろぬ…っ」
(?えっ、なんだ??)
教室を出てまず資料室に向かってきた俺は、踊り場の上からの黒沼の声を聞いて足を止めた。
(黒沼と…何人かいるのか?)
とりあえず黒沼が居たということに安心し、俺は次に聞こえてきた黒沼の言葉に驚いて息が止まりそうになった。
「風早くんに対して…付き合ってもらってるとか、す…好きで、居てもらってるとか、そう思うのは、もうやめたの…!私、みんなの言葉よりも、風早くんの言葉を…信じるよ!」
「なっ…この期に及んで!」
「さっさと別れろってんだよ!」
「い…イヤだよ!私、か…風早くんが好きだもの!」
「…」
「風早くんが私のことを好きだよって言ってくれるうちは…一緒にいたいの…!」
「…っ、よく、そんなこと…!ムカつくんだよ!」
(あ…っ、ヤベッ)
女生徒が持っていた黒沼の髪を離して突き飛ばしたのと、俺が階段を駆け上がったのとは、ほぼ同時くらいだった。肩を押された黒沼はバランスを崩して、階段の上から落ちそうになった。
「あ…っ」
「あ…!!」
黒沼が落ちるよりも、俺が黒沼の肩を掴むほうがいくらか早かった。黒沼は、2.3段下に居た俺に支えられるようにして、なんとか転げ落ちることは免れた。
「か…風早…!」
「風早くん?な…なんでここに??」
びっくりした顔をしながらも、黒沼は俺の顔を見て笑うんだ。いつもの、二人きりのときに見せてくれる、あの花の咲くような笑顔で。しきりにありがとう、助けてくれて…!といっている黒沼から目をそらして、俺は階段の上に立っている数人の女の子たちを見た。…知らない顔もいるけど、同じ中学だったヤツもいる。…ため息が出る。
「あ…風早、こ…これは…」
バツの悪そうな顔をオロオロと自分へ向けている。黒沼に怪我を負わせたかもしれないってことよりも、一部始終俺が聞いてしまっただろうことへの、不安感…どこまで、バカなんだ。こいつらは。すべてを言い切る前に、自分の言葉でそれを遮ってやった。
「…俺の彼女に、なんか用事?」
授業始まってるし。
黒沼を自分の後ろに隠すようにして、そいつらに向き直った。
「彼女…って、風早、本気でそんな…」
「そんな?なに?本気だったら何だって言うんだよ」
明らかに怒りを隠そうとしていない俺に、そいつらは血の気の引いた顔で後ずさる。
「俺が、黒沼を好きで、何がダメなの?お前らに、黒沼の何が分かるんだよ。全く知りもしないくせに、勝手なこと言うな!」
「か…かぜはや…」
「つーか、これ以上黒沼になんかしたら…余計なことしたら、俺、マジで何すっかわかんねーから」
一呼吸置いて、更に続けようとしたとき、後ろに居た黒沼が俺の背中を叩いた。
「…怪我なんて、させてみろよ。女だからって… …」
「か、風早くん!」
それまで口を挟まなかった黒沼が、俺を見上げてかぶりをふった。
「も…もう、いいから!私なら、大丈夫だから!」
「黒沼」
「だから…風早くんが、そんなこと言う必要ない」
黒沼は、俺の後ろから出て、そいつらのほうをまっすぐ見つめた。
「私…何も出来ないかもしれないけど、風早くんのことは、ちゃんと想ってるから…それは、本当だから…だから、お付き合いしてることも、信じてください」
黒沼はぺこっと頭を下げた。俺は、自分がとんでもないことを言っていたことにはっとし、だんだんと体中が熱くなって来た。階段の上に居た女生徒たちは、うつむいたまま無言で去っていった。
---
「風早くん…どうして、ここが?」
「あー、矢野と吉田が…」
「…そっかー…みんな、気にしててくれたんだ…風早くん、助けてくれてありがとう…」
落ちたら、怪我してました…と黒沼は俺に礼を言った。
「いや…もっと早く、止めてあげれば良かったんだけど…」
「え?」
「じ…実は、少し前から、そこにいたんだけど」
踊り場の下を指差して、俺はしゃがみこんだ。
「く…黒沼が…!なんか、俺のことで、すごい頑張ってて、う…嬉しいこと言ってくれてたから…!」
ごめん…助けに入るの、遅くなった…と、顔を真っ赤にしてしゃがみこんでいる俺の横に、黒沼も座り込んだ。
「…聞いてたの…!は…私ったら、ずいぶんと恥ずかしいことを…!」
両手で顔を押さえて、黒沼も自分の言葉を思い出し顔を赤く染めた。
「いや…嬉しかったよ?」
顔を上げた俺と黒沼の目が合った。
「…黒沼」
「か…風早くん…!」
俺は、黒沼を、ぎゅっと抱きしめた。黒沼はおどろいて、俺の胸を両手で押すが、そんな力じゃびくともしない。
「誰かに見られたら…!」
「見られたっていいんだ…もう少し、このまま… …だめ?」
「だっ…だめじゃ、ないです…」
改めて黒沼を自分に引き寄せる。
自分でも、あんなふうに女の子に対して怒りをそのままぶつけたのって、初めてだけど…
(きっと、黒沼だからなんだ…)
これからも、もしかしたら、こういうことがあるのかもしれない。そうなったら、また、こうして自分が助ければいい。
『…もしそーなったとしても、俺がどーにかする!』
いつか、三浦に対して言った言葉。
それだけのことなんだ…
---
しばしそのまま互いの存在を確かめ合っていると、俺は何かに弾かれたように立ち上がった。
「やべっ!!い…今、何分たった??」
「え…?授業…?えと…20分、すぎちゃったね…」
ごめんなさいと黒沼が言い終わる前に手を掴んで教室へと走った。
その頃…2-Dの教室では、さすがに授業中の放送を止められたピンが、ジョーを使って例の再々現ドラマを楽しんでいた。
「あー、まぁ、よかったね」
皆知ってることだからいまさら別にね、と千鶴が風早にウシシ!と笑いかける。
「爽子、何があったのか、後で聞くよ!」
「~~~~っ、何なんだよ、このクラスはっ!」
頬を染めて、そっとしておいてくれ!という風早に安藤がささやいた。
「いや…無理!お前らうちのクラスの名物カップルだし!」
おもしれーからなっ♪と笑う安藤に恨めしそうな目を向ける風早だが、その後ろでは名物カップルといわれ
喜んでいる爽子がほほえんでいた。
Fin
*****************************
ちゃんちゃん!
いかがでしたでしょうか(^^)
後半、かなり黒風早が出て来てしまいました…
スイッチ入っちゃった感じですね~…
爽や風が好きな方には申し訳ないです…
それでもかなり持ちこたえさせたつもりなんですが(笑)
今回のお話で12月の宝石のお話しは終わります。
ターコイズは難しいなぁと思ったんですが、
そういえば!風早くんケントにこんなこと言ってたな!と思い出したのが事の発端でした…最近の別マのネタばれが少々入っていたりと色々試みてみたお話でした。
楽しんでいただけていたら、嬉しいです。
では、また次回作で!
芦屋トモ
2009.12.22
(年末最大商戦なので更新はさらに滞ります…)
・最初からお読みになられる方はこちらからどうぞ
→ 【涙のあとには 1】
12月の誕生石…ターコイズ
・石の持つ力…「邪悪なもの、危険から身を守る」
・登場人物…風早・爽子(あやね・千鶴・その他…)
・時系列…想いが届いてからの冬
+ 涙のあとには
******************************
昼休み終了間際に“仕事”に出かけていった爽子が戻らない。まじめなあの子が…誰もがそう、首をかしげていた。
「やのちん、爽子、どーしたんだろうね?」
「引っかかるわね…あの子がサボリなんて…このヘタレ王子と神業すれ違いをした時以来」
「ヘタレっていうなよな、矢野!!」
(でも、確かに黒沼がサボるわけない…)
どこかで、具合でも悪くして倒れてるかも??
「おーい。欠席は黒沼だけかー」
「あっ、俺、ちょっと見てくる!」
俺は勢いよく自分の席から立ち上がって、逸る心を抑えて言う。風早の過保護、出たー!とか、皆勝手なこと言って盛り上がってるけど、そんなのお構いなしだ。それどころじゃない!黒沼が居ないんだぞ!…それに、すでに俺と黒沼のことを認めてくれているクラスのみんなの野次は、どこか暖かいものだった。
「風早、頼むよ」
「資料室に、宿題のノートを置きにいったのよ」
「サンキュ!」
資料室か…。あっちの棟、さみーんだよな。大丈夫かな、黒沼…俺はそんなことを考えながら、教室を飛び出そうとする。するとピンの声がそれを押しとどめた。
「おい、コラ!風早、お前俺の授業サボってストロベリータイムか!!」
「ちっ、ちげーだろ!黒沼サボったりしないの、ピンも良く知ってるだろ!」
「…よーし、ならば10分以内に嫁を探し出して来い!さもなければ授業中静まり返ったこの校内にお前の公開告白を再々現ドラマとして特別放送してやろう!」
「…っ、つーかそんなことしていいわけねーだろ!俺、もう行くかんなっ!!」
パシーン!と扉を閉めて、教室の外に出た。
(ピンのやつ…好き勝手言いやがって)
いや、今はそれより黒沼だ。
どこにいったんだろう…??
(とりあえず、資料室、か)
騒がしい教室とは相反する世界。
シンと静まり返って、教室よりも幾分冷たい空気が身を包む。聞こえるのは、教室の中からの教師の声と、チョークの音だけだった。
---
「わ…わたしは…」
睨みつけられている爽子は、それでも臆することなく言葉を選んで慎重に口を開いた。慎重に選んだつもりだったが、結局はストレートな地雷となって女生徒たちに放たれた。
「私は、風早くんと、お付き合い…し、してますっ」
いいお付き合いを!とこぶしを作って力説する爽子に、女生徒たちの顔色が変わる。
「なっ…よく、そんなことがいえんね!なんであんたみたいなのが!」
「そ…それは、私が聞きたいので!」
うまくその場をやり過ごすことなど毛頭考え付かない爽子は、いつもと同じように素直な気持ちを話しているだけだった。しかしそれは、女生徒たちの神経を逆なでするには十分な代物だった。
「はぁっ?なんでお前が、風早と付き合えるんだよっ」
「不釣合いなの、わかんねーの?」
「つーか、別れろよ!」
ヒートアップした女生徒たちは次から次へと爽子に暴言を浴びせる。言葉は刃となって爽子に襲いかかるが、爽子がそれでひるむことはない。変わらずにまっすぐ見てくる爽子に苛立ちを隠そうともしない女生徒たちの一人が、爽子の髪をつかんで引っ張った。
「つ…っっ」
さすがに痛みを堪えることもなく爽子が声を漏らすと、更に畳み掛けるようにわめき散らした。
「風早に色目使ったんじゃないの?!」
「迷惑だよ、風早も!」
「別れたほうがお互いのためだろ!」
髪を引っ張られたまま詰め寄られるが、それでも爽子は動じなかった。
「か…風早くんは、迷惑だなんて…私だって、色目を使うなんて、そんなことしてないよ!」
---
資料室に上がる階段のうえから、なにやら騒がしく声が聞こえる。
(いた!)
「くろぬ…っ」
(?えっ、なんだ??)
教室を出てまず資料室に向かってきた俺は、踊り場の上からの黒沼の声を聞いて足を止めた。
(黒沼と…何人かいるのか?)
とりあえず黒沼が居たということに安心し、俺は次に聞こえてきた黒沼の言葉に驚いて息が止まりそうになった。
「風早くんに対して…付き合ってもらってるとか、す…好きで、居てもらってるとか、そう思うのは、もうやめたの…!私、みんなの言葉よりも、風早くんの言葉を…信じるよ!」
「なっ…この期に及んで!」
「さっさと別れろってんだよ!」
「い…イヤだよ!私、か…風早くんが好きだもの!」
「…」
「風早くんが私のことを好きだよって言ってくれるうちは…一緒にいたいの…!」
「…っ、よく、そんなこと…!ムカつくんだよ!」
(あ…っ、ヤベッ)
女生徒が持っていた黒沼の髪を離して突き飛ばしたのと、俺が階段を駆け上がったのとは、ほぼ同時くらいだった。肩を押された黒沼はバランスを崩して、階段の上から落ちそうになった。
「あ…っ」
「あ…!!」
黒沼が落ちるよりも、俺が黒沼の肩を掴むほうがいくらか早かった。黒沼は、2.3段下に居た俺に支えられるようにして、なんとか転げ落ちることは免れた。
「か…風早…!」
「風早くん?な…なんでここに??」
びっくりした顔をしながらも、黒沼は俺の顔を見て笑うんだ。いつもの、二人きりのときに見せてくれる、あの花の咲くような笑顔で。しきりにありがとう、助けてくれて…!といっている黒沼から目をそらして、俺は階段の上に立っている数人の女の子たちを見た。…知らない顔もいるけど、同じ中学だったヤツもいる。…ため息が出る。
「あ…風早、こ…これは…」
バツの悪そうな顔をオロオロと自分へ向けている。黒沼に怪我を負わせたかもしれないってことよりも、一部始終俺が聞いてしまっただろうことへの、不安感…どこまで、バカなんだ。こいつらは。すべてを言い切る前に、自分の言葉でそれを遮ってやった。
「…俺の彼女に、なんか用事?」
授業始まってるし。
黒沼を自分の後ろに隠すようにして、そいつらに向き直った。
「彼女…って、風早、本気でそんな…」
「そんな?なに?本気だったら何だって言うんだよ」
明らかに怒りを隠そうとしていない俺に、そいつらは血の気の引いた顔で後ずさる。
「俺が、黒沼を好きで、何がダメなの?お前らに、黒沼の何が分かるんだよ。全く知りもしないくせに、勝手なこと言うな!」
「か…かぜはや…」
「つーか、これ以上黒沼になんかしたら…余計なことしたら、俺、マジで何すっかわかんねーから」
一呼吸置いて、更に続けようとしたとき、後ろに居た黒沼が俺の背中を叩いた。
「…怪我なんて、させてみろよ。女だからって… …」
「か、風早くん!」
それまで口を挟まなかった黒沼が、俺を見上げてかぶりをふった。
「も…もう、いいから!私なら、大丈夫だから!」
「黒沼」
「だから…風早くんが、そんなこと言う必要ない」
黒沼は、俺の後ろから出て、そいつらのほうをまっすぐ見つめた。
「私…何も出来ないかもしれないけど、風早くんのことは、ちゃんと想ってるから…それは、本当だから…だから、お付き合いしてることも、信じてください」
黒沼はぺこっと頭を下げた。俺は、自分がとんでもないことを言っていたことにはっとし、だんだんと体中が熱くなって来た。階段の上に居た女生徒たちは、うつむいたまま無言で去っていった。
---
「風早くん…どうして、ここが?」
「あー、矢野と吉田が…」
「…そっかー…みんな、気にしててくれたんだ…風早くん、助けてくれてありがとう…」
落ちたら、怪我してました…と黒沼は俺に礼を言った。
「いや…もっと早く、止めてあげれば良かったんだけど…」
「え?」
「じ…実は、少し前から、そこにいたんだけど」
踊り場の下を指差して、俺はしゃがみこんだ。
「く…黒沼が…!なんか、俺のことで、すごい頑張ってて、う…嬉しいこと言ってくれてたから…!」
ごめん…助けに入るの、遅くなった…と、顔を真っ赤にしてしゃがみこんでいる俺の横に、黒沼も座り込んだ。
「…聞いてたの…!は…私ったら、ずいぶんと恥ずかしいことを…!」
両手で顔を押さえて、黒沼も自分の言葉を思い出し顔を赤く染めた。
「いや…嬉しかったよ?」
顔を上げた俺と黒沼の目が合った。
「…黒沼」
「か…風早くん…!」
俺は、黒沼を、ぎゅっと抱きしめた。黒沼はおどろいて、俺の胸を両手で押すが、そんな力じゃびくともしない。
「誰かに見られたら…!」
「見られたっていいんだ…もう少し、このまま… …だめ?」
「だっ…だめじゃ、ないです…」
改めて黒沼を自分に引き寄せる。
自分でも、あんなふうに女の子に対して怒りをそのままぶつけたのって、初めてだけど…
(きっと、黒沼だからなんだ…)
これからも、もしかしたら、こういうことがあるのかもしれない。そうなったら、また、こうして自分が助ければいい。
『…もしそーなったとしても、俺がどーにかする!』
いつか、三浦に対して言った言葉。
それだけのことなんだ…
---
しばしそのまま互いの存在を確かめ合っていると、俺は何かに弾かれたように立ち上がった。
「やべっ!!い…今、何分たった??」
「え…?授業…?えと…20分、すぎちゃったね…」
ごめんなさいと黒沼が言い終わる前に手を掴んで教室へと走った。
その頃…2-Dの教室では、さすがに授業中の放送を止められたピンが、ジョーを使って例の再々現ドラマを楽しんでいた。
「あー、まぁ、よかったね」
皆知ってることだからいまさら別にね、と千鶴が風早にウシシ!と笑いかける。
「爽子、何があったのか、後で聞くよ!」
「~~~~っ、何なんだよ、このクラスはっ!」
頬を染めて、そっとしておいてくれ!という風早に安藤がささやいた。
「いや…無理!お前らうちのクラスの名物カップルだし!」
おもしれーからなっ♪と笑う安藤に恨めしそうな目を向ける風早だが、その後ろでは名物カップルといわれ
喜んでいる爽子がほほえんでいた。
Fin
*****************************
ちゃんちゃん!
いかがでしたでしょうか(^^)
後半、かなり黒風早が出て来てしまいました…
スイッチ入っちゃった感じですね~…
爽や風が好きな方には申し訳ないです…
それでもかなり持ちこたえさせたつもりなんですが(笑)
今回のお話で12月の宝石のお話しは終わります。
ターコイズは難しいなぁと思ったんですが、
そういえば!風早くんケントにこんなこと言ってたな!と思い出したのが事の発端でした…最近の別マのネタばれが少々入っていたりと色々試みてみたお話でした。
楽しんでいただけていたら、嬉しいです。
では、また次回作で!
芦屋トモ
2009.12.22
(年末最大商戦なので更新はさらに滞ります…)
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2009.12.22 *Tue
●○ 涙のあとには 1 ○●
12月の誕生石…ターコイズ
・石の持つ力…「邪悪なもの、危険から身を守る」
・登場人物…風早・爽子(あやね・千鶴・その他…)
・時系列…想いが届いてからの冬
+ 涙のあとには
******************************
「ねぇ…やっぱあれ、本当だったね」
「うん…すごいショック…好きだったのに…」
「カナちゃん、風早のこと好きだったもんねー」
「ぅぅ~~~~」
「なんか、風早が“ベタ惚れ”宣言したんだって!」
「あの貞子だよ!しんじらんない!」
「…貞子ってさぁ、ホントはどんなヤツなの」
「ウワサが先行してる感じだよね~~」
「よくわからんっつか。てゆか、皆知らないでしょ!」
「相変わらず矢野と吉田ともフツーに仲いいしね…」
私が今まで流してきた涙。
これから流す涙。
私が風早くんとお付き合いをすることになって、
誰かがどこかで流す涙。
何が違うの?
どこが違うんだろう。
風早くんへの想いは、きっと同じなのに。
私のこれからの涙はきっと…嬉し涙で。
彼女たちの涙は、悔し涙なの?
なんだか…いいのかな。
このことを考えると、いつも言いようのない悲しみが襲う。
---
「くーろぬまっっ」
「わ…わぁっ、び、びっくりしたー!」
良く晴れた放課後。
私は日課である花壇の世話に精を出してから「ちょーどいいとこに!」と呼び止められて荒井先生の雑用を手伝い、夕暮れが迫り影を落とす教室へと戻ったところだった。SHRが終わってからここへ来るまでに、だいぶ時間がたっている。
「ははっ、黒沼は不意打ちに弱いな!」
いつものように、私にとってはこれ以上ないくらいまぶしい笑顔で、風早くんが言った。
「黒沼と一緒に帰ろうと思って…待ってたんだ」
なんか、俺前にもこんなことしたなー、と少しはにかんで、風早くんがつぶやく。なんだか、そのひとつひとつが…か、かわいらしく思えてしまって…風早くんから目が離せなくなる。こんなこといったら、怒るかな…。かわいいなんて言われて喜ぶ男の人、いないよね!
「黒沼?…くーろぬまってば!」
私は何度か呼ばれていたようで、返事をしない私を覗き込むように、近づいてきた風早くんが首をかしげる。あわわわわ…し、至近距離!
「あ、、、っ、は・はいっ!ご、ごめんなさい!」
急に意識してしまって、両の頬を思わず手で抑える。わぁ~、私、きっと今ヒドイ顔してる!
「どーしたの?…あ、なんか用事あった?」
「い、いえ!そうではなくて…」
「ん?」
なぁに?という顔で私を見てる…うぅ…い、言ってしまっていいのかな…
「か…風早くんが、かわいらしく見えてしまって…だ、大好きだなぁって…」
「えっ」
きっと思いもよらなかった私の告白で、風早くんも見る間に顔を赤くしてしまった。あぁ~、わ、悪いことをしてしまった…!赤く染まった顔を隠すように腕をあげて、じっと私を見てる。あ…。わたし、この仕草の風早くん、好きだな…。…なんて、またそんなことを考えていたら、風早くんがぷぅっと顔を膨らませた。
「なんだよ~、バカにしてんのっ」
「えっ、えっ、あ、ちが…っ、そうではなくて!あの…!」
あわてて首と両手をぶんぶん振る私に、堪えられなくなったかのように風早くんが吹き出した。
「あははっ、嘘!じょーだんだよ!ちょっと意地悪した!」
ほーっと胸を撫で下ろす私をみて、風早くんはなんだか満足そうな顔をしてる。
「かわいくて、すきなの?」
「あ…。えっと、風早くんは、とてもかっこいいのだけど…さっきみたいな…そ…そんなところも、す、好きです…」
「うん!知ってる!俺も黒沼、大好きだよ!」
「うん…!う、嬉しい、すごく…!」
「じゃ、帰ろっ」
私があわてて自分の学生鞄を持ち振り返ると、風早くんが手を差し出していた。
「あ…あの、風早くん…これは…っ!?」
「え?彼氏と彼女が一緒に帰るって言ったら、コレでしょ!」
風早くんは笑顔で私に手を差し出す。
「え…っ、えっ」
「ほら、黒沼!手!」
「あ、はいっ…!…で、ではっ」
差し出した右手が、風早くんの右手に重なった。
「…くろぬまー。これじゃ、歩けないじゃん!違うでしょ!」
思わず握手をする格好になった私の手を優しくほどいて、風早くんは私の左手を取る。
「はい!…こうだよ!」
「…っ、な、なんか恥ずかしいなぁ~!」
「俺だって!」
一緒だよ!と、風早くんは照れ笑いをしてる。なんか…すごく、すごーく幸せだな…
「男の人と手を繋ぐなんて…それで、一緒に帰るなんて初めてだよ…」
「俺も、好きな子と手を繋いで帰るなんて、初めて!」
私は隣にいる風早くんを見上げた。風早くんも私を見てる…自然に、微笑み合った。
すぐ届くところに、風早くんがいる。
手を伸ばせば届くし、見上げれば、大好きな笑顔がそこにある。少し前までのあの苦しくてつらかった日々が、嘘みたいに…思い出は、儚く散る。
仲睦まじく笑いあいながら、
時折視線を絡ませながら。
手を取り合って学校を去る2人の姿を、少し離れているところから見ている女生徒たちが居た。
「ねぇ…ほんと、風早、ニコニコしてるね」
「そんなに好きなのかな…」
「…ちょっと、確かめてみる…?」
---
後日。
昼休みに集めた宿題のノートを資料室に届けた帰りに、爽子は数人の女生徒たちに呼び止められた。
「貞子、ちょっといいかな?」
資料室付近は、教室から離れているせいか人もまばらで緊迫したその様子に気付く者も居ない。
(あ…隣のクラスの人たち、だな!)
体育の授業で見たことあるよね…などと考えていると、その中の一人が爽子に詰め寄った。
「ねぇ、あんた、本当に風早と付き合ってんの?」
「え…っ、えぇっ!?」
あまりに唐突な質問に爽子は驚きを隠せなかった。そういえば、風早は打ち上げでも、その後学校内でも、爽子が彼女で、自分が爽子を好きなのだと話していたから。他クラスの女子が知っていてもなんら不思議ではなかった。
「あ…あの…」
「ホントに付き合ってんのかってきーてんだよ!」
女生徒たちは爽子をじりじりと後ずさらせてしまうくらいの勢いで詰め寄った。廊下には午後の授業が始まる合図のチャイムが鳴り響くが、爽子は動ける雰囲気ではないことを感じ取っていた。
(きっと…この人たちも、風早くんが好きだったんだ)
トイレで女の子のすすり泣く声を聞いたときに感じた、あの気持ちが膨れ上がる。あの時も、いろんな人の気持ちの上に自分が立っているのだと感じた。この子達と私…違いなんてないはずなのに。
(でも、風早くんは、私を見つけてくれて…)
色々なことを教えてくれて。知らなかった気持ちを、教えてくれて…好きだ、と言ってくれて。
(…信じられないのは、私のほう…)
でも。
風早くんのことを。
彼が言うことを。
私が信じられないでどうするの?
誰が、風早くんを信じるの?
誰が信じなくても、信じられなくても、
私だけは、信じなくちゃ…
意を決したように、爽子はうつむいていた顔を上げ、前を見据えて口を開いた。
「わ…わたしは…」
→続く
****************************
ここまできて続く!
思いがけず放課後シーンが長くなってしまいました…!トモの空想では、最初のおててつなぎはあんな感じ…ウブな爽子には、焦れ太の意図は伝わりません(笑)。ちょっとかわいく年相応っぽい風早くんを書きたかったけどなんだかいつもどおりのただの風早くんでした…
あとちょっとだけ?続きます。
芦屋トモ
2009.12.21
2009.12.16 *Wed
●○ 昨日よりも 今日よりも ○●
12月の誕生石…ラピスラズリ
・石の持つ力…「邪念・不安・嫉妬を払いのける」
「知恵と洞察力、判断力を高める」より
・登場人物…爽子、あやね、ちづ、風早
・時系列…思いが伝わった冬
+昨日よりも 今日よりも
******************************
私の人生は、今年180度変わった。
北幌高校へ入学してから…
風早くんと出逢って、私が変われたの。
あやねちゃんやちづちゃんと出逢って…
私の世界は、大きく広くなった。
大切な皆が、私のことを好きだといってくれる…
なんて幸せなんだろう。
でも、やっぱりそれでも頭をもたげてくる不安。
私なんか…そんなふうに。
決して、卑屈になるわけではないけれど、
「私」が不安。
長年の経験で培われてきた、”慣れ”というものは
簡単にはなくならない。
なんで、こんな私を皆は好きでいてくれるの。
どうして、一緒にいてくれるの…?
私は、皆が大好き。大好きなの…
大好きで大切な人に、大好きで大切な友達に、
私は何をしてあげられる…?
---
(…爽子、あ~、また悩んでる)
SHRも終わり、それぞれが帰途につく中。
あやねは、自分の席で物思いに耽る爽子を見る。
眉間に皺を寄せて…額に指をあてて。
まった、難しーく考えてるんだろうな。
容易に想像できてしまう。
(わかりやすいったら、ないの)
ふぅ、と息をつき、あやねは爽子をみながら思いをめぐらせる。以前だったら、怒ってんのかよとか、にらんでんのか?とか。そう考えただろうけど、今は違う。
私たちが大好きで、そして、私たちを大好きだといってくれる友達。真剣に何かに悩むとき、それも特に自分に自信が持てないとき。あるいは、皆のことで何かを考えるとき…
あの子は、いつもあんな顔。
(う~~ん…。今、悩んでそうなヤツ、いる?)
思い当たる節は、やっぱ風早。あいつは…
……。にこにこデレデレした顔してる。
しまんねー顔、すんなよ!
ちづは…。お腹がすいたって悲しい顔してる。
このあとラーメン行こうって騒ぎ出すわね…。
龍は?…寝てるし。
―私?イヤ、確かに爽子と風早見てると、自分もピュアな恋愛がしたくて物欲しそうになっちゃってるのかもしれない…けど、まさか爽子にはそこまで分かるまい。
(…となると、自分のことだね。うん、絶対そう。)
そんなときは、この一言。
「爽子…」
「あ、あやねちゃん、どうしたの?」
突然あやねに呼びかけられた爽子は、ばっと振り向いて…やっぱり難しい顔をしている。
「あのね、爽子。あたしたち…皆、今の爽子が…大好きだよ!」
言葉を借りるならね!とにやりと笑顔を浮かべる。
な、なんで分かったんだろう?あやねちゃん、すごい!今、私が一番聞きたかった言葉かも!と、爽子は感動している。
「…!!あ、あやねちゃん、ありがとう…!うれしい…!私も、皆が大好きなの!」
興奮して両手を握りこぶしにして話す爽子と、それをみて満足そうにうなずくあやねを風早はなんともいえない顔をして眺めていた。
「あの…はずかしいから、いつまでも引用するのやめて…」
「はぁ?あんたも、爽子に邪念を持つのやめてくれる!?」
あやねの放った邪念という言葉に、妙に敏感に反応して頬を赤く染めてしまう風早。ほ~ら、みなさいよ!爽子、気をつけんのよ!とあやねは爽子を風早から隠すようにして抱きしめる。
「じゃ…!邪念って!俺はヨコシマな気持ちはなにも…!」
口元を腕で隠しながら、自分の言ったヨコシマという言葉にも更に顔を赤くする。
(邪念だらけじゃん!)
「なにも??なんだって!?」
「なにも…!~~~~~っ、も、持ってないと思う…」
フシューーーと顔から湯気がでるように恥ずかしがっている風早を見て、ちょっといじめすぎたかな?と思っても、もう止まらない。
「ヨコシマ!王子様が王子様じゃなくなっちゃう!」
大変大変!と茶化すあやねを、爽子がとめた。
「あ…あやねちゃんっっ」
「爽子も何か言ってやんな、このヨコシマ王子に!」
「あ…そ、そんな風早くんも、好きです…」
(…。あーーー、もう!勝手にやってて!)
---
昨日よりも、好き。
今日よりも、明日はきっと、もっと大好きになる。
昨日よりも今日よりも、明日の私は、もっと自信が持てるはず。
顔を赤く染めながら見つめあって笑う2人を横目に、あやねが深い深い感嘆のため息を漏らしたのは、いうまでもない。
(あ~あ、私も、私のこと好きになってくれて大切にしてくれる人、見つけよ!!)
その洞察力が発揮されるのは、まだまだ先のお話……。
Fin
**************************
トモの大好きあやねちゃんのお話しでした!
今回は宝石を変えてみました。ラピスラズリという、紺色の宝石です。装飾品として古代から使われている、とてもステキな宝石です。
この石の持つ力は、あやね、爽子、風早(笑)に当てはまるな!と思い、観察眼、洞察力のするどいあやねちゃんを描いてみました。トモの中のあやねちゃんは、こんな子です。とてもいい子!うまーく主導権をにぎるあやねちゃんが好きです(^^)連載にもこういう感じの部分が多々ありますが、もっとやって!って感じです。大好物!(笑)
こんな…稚拙なお話しでしたが、お読み頂きありがとうございました!
芦屋トモ
2009.12.9
(2009.12.16 ちょっとだけ手直し)
2009.12.16 *Wed
●○ 魔法のコトバ ○●
12月の誕生石「タンザナイト」
・石の持つ力…「霊力を授ける魔法の石」より
・登場人物…風早、爽子、あやね、ちづ、龍
・時系列…思いが届いてからの冬、12月
+ 魔法のコトバ
************************
寒い寒い、北国の冬。
それでも、彼女たちの周りは暖かい。
にぎやかな教室、大好きな友達。
たわいのないおしゃべり…そのすべてが、暖かい。
「ねー、今年ももうすぐ爽子の誕生日だね!」
「あー、そうね。去年は楽しかったわね~。
…消したい思いでもあるけど…」
「えっ、誕生日!そっか、もうそんな時期なんだ…」
昨年の誕生日のことを思い出して、爽子はほんのり頬を染めた。
昨年…あやねちゃんとちづちゃんが、私を少しでもかわいくして
風早くんのもとへ送り出そうとしてくれて…
彼と2人で迎えた、私の誕生日と、新年。
「す…っごい、幸せだったよ…!ありがとう、あやねちゃん、ちづちゃん…!」
「今年は前もって分かってるんだもんね~。爽子、期待しときなよ」
フフフ…と笑って、あやねは意地悪そうにそうつぶやく。
「うわっ、やのちんがまた悪い顔してる!!」
「誕生日なんて…」
嬉しくて、涙が出そうになって俯いた。
「みんなが、覚えていてくれていただけでも、うれしい…」
爽子はうるうるした瞳を輝かせて、大好きな2人の友人を見た。
「誕生日といえば、アクセサリーだけど…
風早にそんな甲斐性あるかな??」
「えっ、そんなん決まってんの?」
「あったりまえじゃない!男から女へのプレゼントといったら、
ジュエリー!キラキラのアクセサリー!!」
「そ…それって、やのちんが欲しいだけなんじゃ…」
握りこぶしを作って力説するあやねに、
爽子はあっと思い出したように言葉を紡ぐ。
「あのね…12月の誕生石って、トルコ石とかラピスラズリが有名なんだけど…」
「あー、知ってる。地球みたいな色の石と金粉が混じってる紺色の石ね!」
「そうそう!でもね、実はもうひとつあって…タンザナイトって言う、紫色のとてもキレイな宝石なの…」
美容に命を懸けるあやねは、多少ジュエリーの知識があったが
それに反して千鶴のほうは、2人が話している内容には??が飛んでしまっていた。
「へ~、それは知らなかったかも。」
「それでね、その宝石の持つ力がね…」
爽子がこしょこしょと2人に耳打ちした。
「魔法の石かぁ~~」
あやねと千鶴はへぇ~っと感心している。
よく知ってるねぇと千鶴が感心しきっていると、ガラッと教室のドアを開けて一人の男子生徒が入ってくる。
「あ~、教室あったけー!廊下、さみー!!」
あはは!と笑う声の主に、教室に居た皆が集まってくる。
ピンに呼び出されて職員室に行っていた風早が教室に戻ってきたのだった。風早は、奥の席に爽子たちを見つけると、男子生徒との会話も程ほどににこにことして近づいてきた。
「何の話してるの??」
相変わらずの王子様スマイルを見せる風早に、ちづが答える。
「あー、爽子ね、魔法が使いたいんだって!!」
そんな話しだったっけ?
「…ずいぶん要約されたわね…」
えっ、そんなつもりじゃ!とあわてて手を振る爽子だが、
少々思い直す。考えると、恥ずかしくなってきて頬が火照ってくるのが分かる。
(でも…ちょ、ちょっと、使ってみたい…)
座ったまま、横に立っている風早を見上げる。
自然と上目遣いの爽子とばちっと目が合い、突然のことにお互いが顔を真っ赤にする。そんな2人を見て、あやねと千鶴は((始まった…ウブコント))と目を合わせる。
「く…黒沼は、何が叶うといいなって思ってるの?」
「そ……それは……!!…っ、い、言えません~!」
何を妄想してしまったのか、更に真っ赤になった顔を両手で隠す。
「さわこちゃんは、風早に魔法をかけられちゃったからね~~」
意地悪な笑顔で、あやねが風早を見上げた。
お…俺が、魔法を…?
風早は一人で思いをめぐらせ、あるひとつの場面を思い出す。
『黒沼… ……すきだよ!』
あやねや千鶴がそういったわけでもないのに、
勝手に思い出したのは自分なのに。
「……っ、お、おまえら、ほんとヤダ!!」
首筋まで真っ赤にして、耐え切れず風早は机の上に頭を抱えて突っ伏した。あやねとちづは大笑いしている。あーーー、もう!!
でも、…もし、それが本当に黒沼にとって、
魔法のコトバだとしたら…。
「だったら、俺ももうとっくにかかってるし…」
ぼそぼそとつぶやいた風早の声はしっかり2人の耳に届いた。
そのとたんに千鶴が騒ぎ出す。
「そーいうのは、2人のときにやれよ!風早!うちのサワコを!
返しやがれ!」
そんなやり取りを、顔を隠したまま聞いていた爽子は…
(風早くんに…ずっと解けない魔法をかけたいけど…
やっぱり、魔法にかかってるのは、私のほうなの…)
なんていったら、魔法にかかってくれるかな?
大好きなのって言ったら・・・?
ずっと、一緒にいたいのって、ち、ちち違う人見ないで…
…なんて言ったら…?
沢山の大切な気持ちを教えてくれた風早くんに、
私も魔法をかけてみたい。
こ…こんなときの呪文はなんだっけ??
「ち…」
「「「ち?」」」
爽子が意を決して放つのは…
「ち…ちちんぷい!!」
教室中に大笑いが広がる。
「あ…あんた…!最高だよ!」
千鶴は感動の涙を流している。
「ちちんぷいって…」
真っ白になっている風早の後ろで、居眠りから醒め、
もぞっと動く龍の影があった。
「…エロイムエッサイムだろ」
「あわわわ…ま、間違えた!」
Fin
************************
テーマ…テーマ。
爽子に、ちちんぷいと言わせること。
龍に、エロイムエッサイムといわせること…。
こんなくだらない妄想から始まりました。
間違いなく、風早くんは魔法にかかったと思います!
爽子、よかったね!
急いで書き上げてしまったので、なんだか雑でスミマセン…。
芦屋トモ
2009.12.8
(2009.12.16 ちょっと手直し)
・石の持つ力…「霊力を授ける魔法の石」より
・登場人物…風早、爽子、あやね、ちづ、龍
・時系列…思いが届いてからの冬、12月
+ 魔法のコトバ
************************
寒い寒い、北国の冬。
それでも、彼女たちの周りは暖かい。
にぎやかな教室、大好きな友達。
たわいのないおしゃべり…そのすべてが、暖かい。
「ねー、今年ももうすぐ爽子の誕生日だね!」
「あー、そうね。去年は楽しかったわね~。
…消したい思いでもあるけど…」
「えっ、誕生日!そっか、もうそんな時期なんだ…」
昨年の誕生日のことを思い出して、爽子はほんのり頬を染めた。
昨年…あやねちゃんとちづちゃんが、私を少しでもかわいくして
風早くんのもとへ送り出そうとしてくれて…
彼と2人で迎えた、私の誕生日と、新年。
「す…っごい、幸せだったよ…!ありがとう、あやねちゃん、ちづちゃん…!」
「今年は前もって分かってるんだもんね~。爽子、期待しときなよ」
フフフ…と笑って、あやねは意地悪そうにそうつぶやく。
「うわっ、やのちんがまた悪い顔してる!!」
「誕生日なんて…」
嬉しくて、涙が出そうになって俯いた。
「みんなが、覚えていてくれていただけでも、うれしい…」
爽子はうるうるした瞳を輝かせて、大好きな2人の友人を見た。
「誕生日といえば、アクセサリーだけど…
風早にそんな甲斐性あるかな??」
「えっ、そんなん決まってんの?」
「あったりまえじゃない!男から女へのプレゼントといったら、
ジュエリー!キラキラのアクセサリー!!」
「そ…それって、やのちんが欲しいだけなんじゃ…」
握りこぶしを作って力説するあやねに、
爽子はあっと思い出したように言葉を紡ぐ。
「あのね…12月の誕生石って、トルコ石とかラピスラズリが有名なんだけど…」
「あー、知ってる。地球みたいな色の石と金粉が混じってる紺色の石ね!」
「そうそう!でもね、実はもうひとつあって…タンザナイトって言う、紫色のとてもキレイな宝石なの…」
美容に命を懸けるあやねは、多少ジュエリーの知識があったが
それに反して千鶴のほうは、2人が話している内容には??が飛んでしまっていた。
「へ~、それは知らなかったかも。」
「それでね、その宝石の持つ力がね…」
爽子がこしょこしょと2人に耳打ちした。
「魔法の石かぁ~~」
あやねと千鶴はへぇ~っと感心している。
よく知ってるねぇと千鶴が感心しきっていると、ガラッと教室のドアを開けて一人の男子生徒が入ってくる。
「あ~、教室あったけー!廊下、さみー!!」
あはは!と笑う声の主に、教室に居た皆が集まってくる。
ピンに呼び出されて職員室に行っていた風早が教室に戻ってきたのだった。風早は、奥の席に爽子たちを見つけると、男子生徒との会話も程ほどににこにことして近づいてきた。
「何の話してるの??」
相変わらずの王子様スマイルを見せる風早に、ちづが答える。
「あー、爽子ね、魔法が使いたいんだって!!」
そんな話しだったっけ?
「…ずいぶん要約されたわね…」
えっ、そんなつもりじゃ!とあわてて手を振る爽子だが、
少々思い直す。考えると、恥ずかしくなってきて頬が火照ってくるのが分かる。
(でも…ちょ、ちょっと、使ってみたい…)
座ったまま、横に立っている風早を見上げる。
自然と上目遣いの爽子とばちっと目が合い、突然のことにお互いが顔を真っ赤にする。そんな2人を見て、あやねと千鶴は((始まった…ウブコント))と目を合わせる。
「く…黒沼は、何が叶うといいなって思ってるの?」
「そ……それは……!!…っ、い、言えません~!」
何を妄想してしまったのか、更に真っ赤になった顔を両手で隠す。
「さわこちゃんは、風早に魔法をかけられちゃったからね~~」
意地悪な笑顔で、あやねが風早を見上げた。
お…俺が、魔法を…?
風早は一人で思いをめぐらせ、あるひとつの場面を思い出す。
『黒沼… ……すきだよ!』
あやねや千鶴がそういったわけでもないのに、
勝手に思い出したのは自分なのに。
「……っ、お、おまえら、ほんとヤダ!!」
首筋まで真っ赤にして、耐え切れず風早は机の上に頭を抱えて突っ伏した。あやねとちづは大笑いしている。あーーー、もう!!
でも、…もし、それが本当に黒沼にとって、
魔法のコトバだとしたら…。
「だったら、俺ももうとっくにかかってるし…」
ぼそぼそとつぶやいた風早の声はしっかり2人の耳に届いた。
そのとたんに千鶴が騒ぎ出す。
「そーいうのは、2人のときにやれよ!風早!うちのサワコを!
返しやがれ!」
そんなやり取りを、顔を隠したまま聞いていた爽子は…
(風早くんに…ずっと解けない魔法をかけたいけど…
やっぱり、魔法にかかってるのは、私のほうなの…)
なんていったら、魔法にかかってくれるかな?
大好きなのって言ったら・・・?
ずっと、一緒にいたいのって、ち、ちち違う人見ないで…
…なんて言ったら…?
沢山の大切な気持ちを教えてくれた風早くんに、
私も魔法をかけてみたい。
こ…こんなときの呪文はなんだっけ??
「ち…」
「「「ち?」」」
爽子が意を決して放つのは…
「ち…ちちんぷい!!」
教室中に大笑いが広がる。
「あ…あんた…!最高だよ!」
千鶴は感動の涙を流している。
「ちちんぷいって…」
真っ白になっている風早の後ろで、居眠りから醒め、
もぞっと動く龍の影があった。
「…エロイムエッサイムだろ」
「あわわわ…ま、間違えた!」
Fin
************************
テーマ…テーマ。
爽子に、ちちんぷいと言わせること。
龍に、エロイムエッサイムといわせること…。
こんなくだらない妄想から始まりました。
間違いなく、風早くんは魔法にかかったと思います!
爽子、よかったね!
急いで書き上げてしまったので、なんだか雑でスミマセン…。
芦屋トモ
2009.12.8
(2009.12.16 ちょっと手直し)
2009.12.16 *Wed
●○ 風は海から ○●
12月の誕生石”タンザナイト”
石言葉…「誇りの高い人」より
・登場人物…風早、爽子
・時系列…初詣前後の2人
+ 風は海から
*********************************
自分の目で見たものだけを信じる。
自分の感じたものだけを、信じる。
人の話を聞かないとか、そういうんじゃなくて。
俺は、俺を信じてるから。
黒沼に対して感じる感情が偽物じゃないこと、自分が一番良く分かってる。周りになんと言われたっていいんだ。
だって、そんなの俺の気持ちじゃない。
俺は、俺の感じたままに。
誠意を持って、君に接しているつもり。
伝わってるかな…?
---
「はぁっ、さみー!!」
俺は思わず声を上げる。
今日は土曜日。学校での授業が終わった後、黒沼の日課である花壇の世話に無理やり付き合って(黒沼は寒いから…!と遠慮してた)、そして今俺は黒沼の隣を予定通り、手に入れて。2人で夕暮れ迫る海沿いの道を、これもまた無理やり散歩に誘って帰宅中。
ごめんなさい、遅くまで付き合わせちゃったから…!と焦る黒沼。
いいんだ、黒沼の仕事に勝手に付き合ったのは、俺。寒いの分かってたのに、「海、見に行かない?」なんて勇気を出して誘ってみたのも俺。黒沼は頬を赤く染めて、うん、行きたい…と頷いてくれた。謝り続ける黒沼の、寒さに赤くなった唇からこぼれる白い息が、なんだかずごくかわいく見える。
…あー。俺って、ホント重症。でも、そんなことでさえ、嬉しいんだ。黒沼と俺の息が白く重なる。そんな、些細なことで、元気になれちゃうんだ。
キンと身を切るような冷たい風が吹く中、それでもこの道には休憩用のベンチが等間隔に続いている。
そこに居るのは、夕闇にはしゃぐ子供たち。海を眺める人々…
「黒沼、ちょっと、座らない??」
俺は寒さからか口元に手を当てている黒沼に向かって言った。
「ちょっと、待ってて!」
え、え??といつものように状況がつかめない黒沼を残し、俺は目に付いた自販機まで走る。やっぱ、こういうときは温かい飲み物!コーヒーでいいかな・・・黒沼って紅茶のほうが好きかな?ちょっと迷って、温かいコーヒーを2つ。急いで黒沼の元へ戻る。
「はい!」
---
差し出された手には缶コーヒー。
満面の笑みで、風早くんは私にそれを手渡してくれた。
「あ…ありがとう。温かい…」
「ん!」
ベンチに座って待っていた私の横に、風早くんはなんのためらいもなく座る。
「あ、お代を…」
「いいっていいって!今日は俺に付き合ってもらってんだから、そのくらいさせて!」
付き合ってっていう単語に、自分でもびっくりするくらい反応しちゃう。そんなの、彼にとっては普通の会話の中の言葉で、それ以上の意味はないのちゃんと分かってるんだけど。
「あ…ではお言葉に甘えて…い、いただきます」
「ははっ、黒沼は本当に礼儀正しいんだな!」
「えっ、そんなことは!ないよ…そ、それに」
私は、自分でも顔が熱くなってくるのを感じた。
「え、なに?」
「…の」
「ん?」
私は、自分でも消えちゃうんじゃないかって思うくらい、小さな声で言った。
「風早君とお散歩出来て…すごく、うれしいの」
「………」
いただきます、と風早くんに向かって、ぎこちないかもしれないけど笑顔で言った。冷えた体に、温かい気持ちが広がる。コーヒーだけのせいじゃないね。隣に風早くんがいるから…私、今日はずっと、風早くん独り占めできちゃったんだ…。ばちが当たりそう。
---
「風早くんは…」
黒沼が、海を眺めて口を開く。
いただきますって言われてから、俺は何もしゃべれなかった。一緒に散歩できてうれしいって…確かにそういってくれた。かみしめてたんだ。会話を交わさなくても、…一緒にいられてうれしい。一緒にいられるだけで、いい。そう思っているのに、「俺も」が出ない。
「…風早くんは、なんだか風みたい」
言葉の真意を推し量れなくて、しばらくじっと黒沼を見つめる。
「あ、なんていうか…寒い風じゃなくてね、こう…温かくて、優しいんだけど凛としてて…みんなを包んで、吹き抜けていくようなかんじ」
思っていることを伝えようと一生懸命に話す黒沼に、俺は吸い込まれるように見つめるだけしか出来なかった。ほ…褒められてる、んだよな?そう思ったら、かぁっと体温が上がったのを感じた。
「誇り高くてね…気取ってるとかではなくて、意思が強くて、大きくて…つ、伝わるかな??」
ごめんなさい、私ったら変なことを!って、何を言っているんだろう!とあわてはじめる黒沼を見て、思わず声が出る。こういうとこ、ほんとにかわいい。
「あははっ、なんかすっげー褒められた気分!でも、ほんとは、そんなこと全然ないんだけど…」
なくないよ!私にとっては、そうなの!と手をぶんぶん振って俺に伝えてくる黒沼。
黒沼がそう思ってくれるなら、俺、もっと頑張らなきゃ。黒沼を包み込めるような、強くて、優しいそんな風にならなきゃ。我侭だし、独占欲、強いし…本当はもっと黒沼を独り占めしたいって思ってる心の狭いヤツなんだけど…。
黒沼の瞳に映る俺は、今のままでもそんなふうに思って貰えてるのかな。そうだったら、いいな…。俺、頑張らなきゃっておもうけど、きっと、そんなに変われない。今の俺で、いっぱいいっぱい。
「…黒沼」
焦りをごまかすかのように両手で持ったコーヒーをごくごく飲んでた黒沼に呼びかける。はい、と返事をして振り向く黒沼。
「…寒くない?もっと、こっち」
しばらくきょとんとしていた黒沼は、コートの前をあけて黒沼の肩にかけようとしている俺に気づいて、顔を真っ赤にした。
「…あはは!黒沼、顔赤すぎ!」
全然寒さを感じない俺は、相当舞い上がってたんだろうな。これも、俺の意思だから。そうしたくて、やってることだから。かっこ悪い俺も、かっこつけてる俺も、受け入れてくれるといいな・・・
Fin
*****************************
初めての作品がこんなんでいいのかな、あたし…!
しかも、まとまりませんでした。
あぁ、文才ないのは分かってるんだけど…
でも、描きたかったことは描けた気がするから、いっか!
テーマは、12月の誕生石であるタンザナイトから。
石言葉の「誇りの高い人」から、私は風早くんを想像しました。
「俺が見てる黒沼だけが、黒沼だ!」から始まる俺至上主義(笑)崇高じゃないけど、誇り高い若者だなぁと感じています。ちなみに同じ俺”様”至上主義にはピンが居ますが、それはまた別のお話。
風早くんの誇り高き爽子への思い、
そんな風早くんがすきなんですが…
たぶん、そんないーもんじゃないよね(笑)
では、また次回作で!
芦屋トモ
2009.12.8
(2009.12.16 ちょっとだけ手直し)
石言葉…「誇りの高い人」より
・登場人物…風早、爽子
・時系列…初詣前後の2人
+ 風は海から
*********************************
自分の目で見たものだけを信じる。
自分の感じたものだけを、信じる。
人の話を聞かないとか、そういうんじゃなくて。
俺は、俺を信じてるから。
黒沼に対して感じる感情が偽物じゃないこと、自分が一番良く分かってる。周りになんと言われたっていいんだ。
だって、そんなの俺の気持ちじゃない。
俺は、俺の感じたままに。
誠意を持って、君に接しているつもり。
伝わってるかな…?
---
「はぁっ、さみー!!」
俺は思わず声を上げる。
今日は土曜日。学校での授業が終わった後、黒沼の日課である花壇の世話に無理やり付き合って(黒沼は寒いから…!と遠慮してた)、そして今俺は黒沼の隣を予定通り、手に入れて。2人で夕暮れ迫る海沿いの道を、これもまた無理やり散歩に誘って帰宅中。
ごめんなさい、遅くまで付き合わせちゃったから…!と焦る黒沼。
いいんだ、黒沼の仕事に勝手に付き合ったのは、俺。寒いの分かってたのに、「海、見に行かない?」なんて勇気を出して誘ってみたのも俺。黒沼は頬を赤く染めて、うん、行きたい…と頷いてくれた。謝り続ける黒沼の、寒さに赤くなった唇からこぼれる白い息が、なんだかずごくかわいく見える。
…あー。俺って、ホント重症。でも、そんなことでさえ、嬉しいんだ。黒沼と俺の息が白く重なる。そんな、些細なことで、元気になれちゃうんだ。
キンと身を切るような冷たい風が吹く中、それでもこの道には休憩用のベンチが等間隔に続いている。
そこに居るのは、夕闇にはしゃぐ子供たち。海を眺める人々…
「黒沼、ちょっと、座らない??」
俺は寒さからか口元に手を当てている黒沼に向かって言った。
「ちょっと、待ってて!」
え、え??といつものように状況がつかめない黒沼を残し、俺は目に付いた自販機まで走る。やっぱ、こういうときは温かい飲み物!コーヒーでいいかな・・・黒沼って紅茶のほうが好きかな?ちょっと迷って、温かいコーヒーを2つ。急いで黒沼の元へ戻る。
「はい!」
---
差し出された手には缶コーヒー。
満面の笑みで、風早くんは私にそれを手渡してくれた。
「あ…ありがとう。温かい…」
「ん!」
ベンチに座って待っていた私の横に、風早くんはなんのためらいもなく座る。
「あ、お代を…」
「いいっていいって!今日は俺に付き合ってもらってんだから、そのくらいさせて!」
付き合ってっていう単語に、自分でもびっくりするくらい反応しちゃう。そんなの、彼にとっては普通の会話の中の言葉で、それ以上の意味はないのちゃんと分かってるんだけど。
「あ…ではお言葉に甘えて…い、いただきます」
「ははっ、黒沼は本当に礼儀正しいんだな!」
「えっ、そんなことは!ないよ…そ、それに」
私は、自分でも顔が熱くなってくるのを感じた。
「え、なに?」
「…の」
「ん?」
私は、自分でも消えちゃうんじゃないかって思うくらい、小さな声で言った。
「風早君とお散歩出来て…すごく、うれしいの」
「………」
いただきます、と風早くんに向かって、ぎこちないかもしれないけど笑顔で言った。冷えた体に、温かい気持ちが広がる。コーヒーだけのせいじゃないね。隣に風早くんがいるから…私、今日はずっと、風早くん独り占めできちゃったんだ…。ばちが当たりそう。
---
「風早くんは…」
黒沼が、海を眺めて口を開く。
いただきますって言われてから、俺は何もしゃべれなかった。一緒に散歩できてうれしいって…確かにそういってくれた。かみしめてたんだ。会話を交わさなくても、…一緒にいられてうれしい。一緒にいられるだけで、いい。そう思っているのに、「俺も」が出ない。
「…風早くんは、なんだか風みたい」
言葉の真意を推し量れなくて、しばらくじっと黒沼を見つめる。
「あ、なんていうか…寒い風じゃなくてね、こう…温かくて、優しいんだけど凛としてて…みんなを包んで、吹き抜けていくようなかんじ」
思っていることを伝えようと一生懸命に話す黒沼に、俺は吸い込まれるように見つめるだけしか出来なかった。ほ…褒められてる、んだよな?そう思ったら、かぁっと体温が上がったのを感じた。
「誇り高くてね…気取ってるとかではなくて、意思が強くて、大きくて…つ、伝わるかな??」
ごめんなさい、私ったら変なことを!って、何を言っているんだろう!とあわてはじめる黒沼を見て、思わず声が出る。こういうとこ、ほんとにかわいい。
「あははっ、なんかすっげー褒められた気分!でも、ほんとは、そんなこと全然ないんだけど…」
なくないよ!私にとっては、そうなの!と手をぶんぶん振って俺に伝えてくる黒沼。
黒沼がそう思ってくれるなら、俺、もっと頑張らなきゃ。黒沼を包み込めるような、強くて、優しいそんな風にならなきゃ。我侭だし、独占欲、強いし…本当はもっと黒沼を独り占めしたいって思ってる心の狭いヤツなんだけど…。
黒沼の瞳に映る俺は、今のままでもそんなふうに思って貰えてるのかな。そうだったら、いいな…。俺、頑張らなきゃっておもうけど、きっと、そんなに変われない。今の俺で、いっぱいいっぱい。
「…黒沼」
焦りをごまかすかのように両手で持ったコーヒーをごくごく飲んでた黒沼に呼びかける。はい、と返事をして振り向く黒沼。
「…寒くない?もっと、こっち」
しばらくきょとんとしていた黒沼は、コートの前をあけて黒沼の肩にかけようとしている俺に気づいて、顔を真っ赤にした。
「…あはは!黒沼、顔赤すぎ!」
全然寒さを感じない俺は、相当舞い上がってたんだろうな。これも、俺の意思だから。そうしたくて、やってることだから。かっこ悪い俺も、かっこつけてる俺も、受け入れてくれるといいな・・・
Fin
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初めての作品がこんなんでいいのかな、あたし…!
しかも、まとまりませんでした。
あぁ、文才ないのは分かってるんだけど…
でも、描きたかったことは描けた気がするから、いっか!
テーマは、12月の誕生石であるタンザナイトから。
石言葉の「誇りの高い人」から、私は風早くんを想像しました。
「俺が見てる黒沼だけが、黒沼だ!」から始まる俺至上主義(笑)崇高じゃないけど、誇り高い若者だなぁと感じています。ちなみに同じ俺”様”至上主義にはピンが居ますが、それはまた別のお話。
風早くんの誇り高き爽子への思い、
そんな風早くんがすきなんですが…
たぶん、そんないーもんじゃないよね(笑)
では、また次回作で!
芦屋トモ
2009.12.8
(2009.12.16 ちょっとだけ手直し)